エピローグ
それでも 人は人と働いていく
香澄は夜のオフィスに一人残っていた
蛍光灯の音だけが耳に残る
机の上には書きかけの評価シートと
未送信のメール
(私は 正しかったのだろうか)
配置転換という判断
合理的だった
チームは安定した
数字も落ちていない
それでも
胸の奥に残るものがある
(切ったのか、守ったのか、、、私は どっちだったんだろう)
リーダーは決断した後に必ず一人になる
誰にも言えない疑問が
後から追いかけてくる
(私は悠斗を救いたかったのか
それとも
自分が壊れないために彼を手放したのか)
その問いに明確な答えはない
香澄は自分の中にある嫌な感情を無理に否定しなかった
(正直ほっとした
チームが静かになって
空気を気にしなくてよくなって楽になった)
(同時に情けなかった
あの人を抱えきれなかった自分が
弱くて逃げた気がして)
(それでも私はチーム全員を同時に守れない)
それが現実だった
一方悠斗は新しい部署の窓際でパソコンを立ち上げていた
周囲の空気は驚くほど静かだった
誰も自分の表情を過剰に気にしていない
(……楽だ)
その感覚にまず罪悪感が湧いた
(逃げたんじゃないか
負けたんじゃないか)
次に怒りが湧いた
(あのチームは俺を受け止めるって言ったくせに)
さらに嫉妬が混じる
(芽衣はあのまま残ってきっと成長して評価されるんだろうな)
そして小さな安堵
(でも、今は息ができる)
人は一つの感情だけでは生きていない
救われたと感じながら
同時に恨みも抱く
解放されながら
同時に誇りを失う
それが人間だ
数週間後
香澄は偶然悠斗とすれ違った
言葉は短かった
「元気そうだね」
「はい前より眠れるようになりました」
一瞬
間が空いた
(謝るべきか励ますべきか何も言わない方がいいのか)
香澄は結局こういった
「それならよかった」
その言葉に全てを込めた
後悔も
安堵も
許しも
香澄はこの数か月で一つだけはっきりしたことがある
人はきれいには成長しない
誰かを妬み
誰かを責め
自分を正当化し
それでも
時々振り返る
中間管理職とは
その人間の未完成さの渦の真ん中に立ち続ける役割だ
正解はない
全員を救うこともできない
それでも壊れないように設計し決断し引き受ける
そして
夜に一人で自問自答する
(私は人としてどうありたかったのか)
その問いを手放さない限り
リーダーは
まだ人でいられる
チームは
今日も動いている
完璧ではない
静かに摩耗もし続ける
それでも、
誰か一人が潰れきる前に
声が上がる構造がある
それだけで十分なのかもしれない
香澄はオフィスの灯りを消し外に出た
夜風が少し冷たかった
(私は間違え続けるだろう
それでも引き受ける)
それがこの仕事を続ける理由だった
エピローグのあとに
この物語には
完全な救いも分かりやすい成功もありません
現実のチームも同じです
それでも
あなたが問い続けているなら
もうリーダーとしての道を歩いています
最後までお読み頂きありがとうございました
驕り高ぶった瞬間に、管理職としても人としても終わります
「未完全」
このワードこそこのシリーズで私が伝えたかったことなのかも知れません
未完全であるが故に、謙虚になり、耳を傾け、自問自答し
時に苦しみ涙し、そして少しの成長を感じ喜びに震える
人は感情の生き物です
感情と向き合い悩むことは当たり前のことです
それゆえに、人の感情にも意識が向き
未完全であると自覚することで受け入れる準備が出来るのです
もし、感情を否定する上司や同僚がいたとしたら。。。?
あなたは心を保ち続けることができますか?

