1. 権限が渡らない本当の理由は「時間」ではなく「恐れ」
育成現場のコンサルで耳にする典型的なセリフが2つあります。
- 管理職「結局、俺がやった方が早いんだよ」
- 部 下「どうせ最後は上が全部決めるんでしょ?」
どちらも “時間効率” を口にしますが、根底にあるのは 「失敗したらどうする?」という恐れ です。
管理職は自分の評価や部門数字が傷つくリスクを回避したい。
部下は裁量を与えられても “責任だけ背負わされる” 未来を想像し、挑戦を避ける——。
こうして権限移譲の歯車は、噛み合わなくなります。
2. 管理職の “俺がやった方が早い病”
- 短期成果信仰
OKR や月次目標がプレッシャーとなり、目先の成果を死守したくなる。 - 属人化の安心感
「自分の仕事=自分の存在価値」と錯覚し、手放すと不要になる不安。 - 育成コストの誤算
「今教える時間>自分で処理する時間」と計算しがちだが、長期的には逆。
◆ミニ処方箋
- “手放した分”を可視化
任せた案件・時間・成果をリスト化し、手放し効果を数字で体感。 - フィードバック周期を固定
“投げっぱなし”恐怖を減らすため、週1のレビュー枠を先に確保。
3. 部下の “どうせ決まってるんでしょ?” マインド
- 過去の経験学習
アイデアを出しても却下 → 「動くだけ損」と学習される。 - 曖昧な決裁ライン
誰が決めるか不明 → ボトムアップ提案が宙に浮く。 - 安全領域バイアス
失敗より “無難” を選ぶ方が心理的コストが低い。
◆ミニ処方箋
- 「裁量リスト」を明示
予算・期間・判断領域を文書で共有し、やっていい範囲を“見える化”。 - 試作→テスト→本番 の3段階承認
いきなり全責任を背負わせず、“小さく失敗できる”場を設定。
4. 信頼構築と育成の視点──“委ねる”は最強のフィードバック
- 心理的安全性 ≠ 優しさ
「失敗を責めない」だけでなく「挑戦を任せる」からこそ安全を感じる。 - 権限委譲は最高の承認
裁量を渡す行為は「あなたを信じている」という強烈なメッセージ。 - 育成は“投資”
手間を先払 いし、将来のレバレッジを得る——発想を“コスト”から“投資”へ。
5. 権限移譲フローのサンプル
フェーズ | 管理職の役割 | 部下の役割 |
---|---|---|
① 目的共有 | 成果指標・制約条件を共有 | 質問で曖昧点を解消 |
② 計画策定 | リソース配分、決裁ライン提示 | プラン草案を作成 |
③ 実行・レビュー | 週次で進捗確認・支援 | 実行&課題報告 |
④ 振り返り | 評価+学習ポイント抽出 | 学びを次案件へ提案 |
まとめ:権限を「手放す」ことは、組織が「伸びる」こと
手放せないのは能力不足ではなく、“恐れ”と“仕組み不在”。
小さな委譲→成功体験→信頼の循環を回せば、“早さ”と“育成”は両立できます。
【次回予告|第5回(最終回)】
責任と権限の再設計──“自律”を育む組織に必要なこと
シリーズ総まとめとして、評価制度・文化・育成をどうアップデートするか具体策を提案します。お楽しみに!