【シリーズ第4回】権限移譲が進まない組織の心理構造──なぜ“手放せない”のか?

1. 権限が渡らない本当の理由は「時間」ではなく「恐れ」

育成現場のコンサルで耳にする典型的なセリフが2つあります。

  • 管理職「結局、俺がやった方が早いんだよ」
  • 部 下「どうせ最後は上が全部決めるんでしょ?」

どちらも “時間効率” を口にしますが、根底にあるのは 「失敗したらどうする?」という恐れ です。
管理職は自分の評価や部門数字が傷つくリスクを回避したい。
部下は裁量を与えられても “責任だけ背負わされる” 未来を想像し、挑戦を避ける——。
こうして権限移譲の歯車は、噛み合わなくなります。


2. 管理職の “俺がやった方が早い病”

  • 短期成果信仰
    OKR や月次目標がプレッシャーとなり、目先の成果を死守したくなる。
  • 属人化の安心感
    「自分の仕事=自分の存在価値」と錯覚し、手放すと不要になる不安。
  • 育成コストの誤算
    「今教える時間>自分で処理する時間」と計算しがちだが、長期的には逆。

◆ミニ処方箋

  1. “手放した分”を可視化
    任せた案件・時間・成果をリスト化し、手放し効果を数字で体感。
  2. フィードバック周期を固定
    “投げっぱなし”恐怖を減らすため、週1のレビュー枠を先に確保。

3. 部下の “どうせ決まってるんでしょ?” マインド

  • 過去の経験学習
    アイデアを出しても却下 → 「動くだけ損」と学習される。
  • 曖昧な決裁ライン
    誰が決めるか不明 → ボトムアップ提案が宙に浮く。
  • 安全領域バイアス
    失敗より “無難” を選ぶ方が心理的コストが低い。

◆ミニ処方箋

  1. 「裁量リスト」を明示
    予算・期間・判断領域を文書で共有し、やっていい範囲を“見える化”。
  2. 試作→テスト→本番 の3段階承認
    いきなり全責任を背負わせず、“小さく失敗できる”場を設定。

4. 信頼構築と育成の視点──“委ねる”は最強のフィードバック

  • 心理的安全性 ≠ 優しさ
    「失敗を責めない」だけでなく「挑戦を任せる」からこそ安全を感じる。
  • 権限委譲は最高の承認
    裁量を渡す行為は「あなたを信じている」という強烈なメッセージ。
  • 育成は“投資”
    手間を先払 いし、将来のレバレッジを得る——発想を“コスト”から“投資”へ。

5. 権限移譲フローのサンプル

フェーズ管理職の役割部下の役割
① 目的共有成果指標・制約条件を共有質問で曖昧点を解消
② 計画策定リソース配分、決裁ライン提示プラン草案を作成
③ 実行・レビュー週次で進捗確認・支援実行&課題報告
④ 振り返り評価+学習ポイント抽出学びを次案件へ提案

まとめ:権限を「手放す」ことは、組織が「伸びる」こと

手放せないのは能力不足ではなく、“恐れ”と“仕組み不在”
小さな委譲→成功体験→信頼の循環を回せば、“早さ”と“育成”は両立できます。


【次回予告|第5回(最終回)】

責任と権限の再設計──“自律”を育む組織に必要なこと
シリーズ総まとめとして、評価制度・文化・育成をどうアップデートするか具体策を提案します。お楽しみに!

投稿者について

hideyuki_kubota

1967年生まれのひつじ年の獅子座。O型