◆“同じ言葉”が伝わらない?理由は「文脈」
「ありがとう」「ごめんね」「がんばって」——
どれも誰もが日常で使っている言葉ですが、どんな場面で言うかによって、まるで違う意味を持ちます。
たとえば、「ありがとう」も、
- 仕事を手伝ってもらって言う「ありがとう」
- 何気なく受け取ったコーヒーに言う「ありがとう」
- 人生を救われたような出来事に言う「ありがとう」
——どれも、文字としては同じなのに、受け取る側の心の動きが全然違うのです。
つまり、言葉には「意味」だけでなく、「温度」がある。
この“温度”を生むのが、「シチュエーション(状況)」です。
◆言葉の“温度”はシチュエーションが決める
言葉は単体で存在するのではなく、前後の文脈、時間帯、場所、相手との関係性など、さまざまな「状況の層」によって温度が生まれます。
たとえば、以下のシーンを見てください。
【シーンA】
会議の後、部下が資料のミスをして落ち込んでいる。
上司が言う「がんばれよ」
→(部下の心の声)「いや、今それ言う?」
→(温度:冷たい)
【シーンB】
同じ部下が残業続きで疲れている中、丁寧な資料を仕上げた。
上司がそっと近づいて「……おつかれ。ほんと、よく頑張ってるな」
→(部下の心の声)「あ……見てくれてたんだ」
→(温度:あたたかい)
このように、同じ言葉でも、「いつ」「どこで」「どんな関係性で」言うかで、相手の受け取り方は大きく変わります。

◆言葉の温度を高める3つの視点
①「相手の今」にフォーカスする
言葉をかける前に、一呼吸。「この人は今、どんな気持ちだろう?」
これを想像するだけで、言葉の温度が一段変わります。
②「目」と「声」に温度をのせる
実は“非言語情報”が伝達の9割を占めるとも言われます。
同じ言葉でも、「目を合わせる」「声を落ち着ける」だけでまったく別物に。
③「前後の行動」を整える
温かい言葉をかける前に、急にそっけない態度だったり、上から目線だったりすると、言葉の温度は下がってしまいます。
“ことば”は、あなたの“ふるまい”の延長線にあるのです。
◆ミニ練習問題:「冷たい“ありがとう”と温かい“ありがとう”」
あなたは職場の上司です。部下が資料の作成を手伝ってくれました。
次の2パターンの「ありがとう」、どちらが“温かく”伝わると思いますか?
A:
仕事をしながら、「あ、ありがと。たすかった」
→(印象:心がこもっていない、義務感)
B:
仕事の手を休めて資料に目を通してから、「ここ、よく工夫したね。……ありがとう、助かったよ」
→(印象:ちゃんと見てくれてた、認められている)
「言葉に温度をのせる」とは、こういうことなのです。
◆落語にも見る“状況の妙”
落語では、登場人物が「同じ言葉」を違う状況で何度も繰り返します。
「おいでなすったね」——
町人が言えば丁寧な挨拶、
泥棒が言えば皮肉、
おかみさんが言えば怒りの前触れ。
これらの変化は、すべて「状況」と「話し手の立場」で決まります。
◆まとめ:言葉は、文脈と感情の中で“生きる”
言葉を温かくする秘訣は、
「どんな気持ちで、どんな場面で、誰に対して」それを発するかにあります。
「言葉の持つ力」とは、単に“何を言うか”ではなく、
どう”生きた言葉として届けるか”なのです。
【次回予告】
第3回:「“伝える”と“伝わる”は違う!?〜すれ違う言葉の悲劇〜」
「ちゃんと言ったのに伝わってなかった」
「わかってくれると思ったのに、誤解された」
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