【第3回】「“伝える”と“伝わる”は違う!? 〜すれ違う言葉の悲劇〜」


◆「ちゃんと言ったのに伝わらない」問題、発生中

職場でも家庭でも、こんなセリフを聞いたことがあるかもしれません。

  • 「え?そんなつもりで言ったんじゃないのに…」
  • 「ちゃんと伝えたつもりだったんだけどな」
  • 「察してくれてもよくない?」

この“言ったつもり、伝えたつもり”が、なぜか伝わらない。
言葉を交わしているのに、すれ違う——
これが今回のテーマ、「“伝える”と“伝わる”の違い」です。


◆“以心伝心”の文化が生むコミュニケーションの罠

日本文化には「空気を読む」「行間を読む」「察する」という独自のコミュニケーションスタイルがあります。
これはとても美しく、調和的な文化でもありますが、同時にとても高難易度なスキルでもあるのです。

たとえば、こんな会話。


👩‍💼部下:「この件、どうしましょうか?」
👨‍💼上司:「前と同じで、よろしく」

……前と同じって、どこまで?何を?
部下は「なんとなく察しろ」と求められている。
でも実は、前提条件が違っていることも。


日本では「言葉にしないこと」が美徳とされる場面も多く、
言語化しないまま「伝わってると思ってる」ケースが散見されます。

しかし、これは以心伝心が前提になっている不完全な伝達です。


◆“察してちゃん”の危うさ

「私、言わなくても気づいて欲しいんですよね」
「ほんとは、わかって欲しいのに……」

——これが“察してちゃん”です。
実は誰もが少しはこの気質を持っているものです。

でも、これは相手の「読解力」に依存した、非常に不安定な伝え方

しかも、「察してよ」の裏にはしばしば感情の爆発が隠れており、
伝わらなかったときには不満・怒り・誤解・離職・人間関係の崩壊という代償が待っています。


◆“アンコンシャス・バイアス”という見えないメガネ

「言ったのに伝わらなかった」のもう一つの原因が、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)です。

  • 「この人は経験があるから、当然これくらいわかってるはず」
  • 「女性だから、感情的に受け取るかも」
  • 「若いから、まだそこまでは任せられない」

これらはすべて、無意識の中で相手を“型にはめて”解釈しようとするバイアスです。

このフィルターを通してしまうと、どんなに正確に伝えたつもりでも、相手の“脳内で変換”されてしまうのです。


◆“伝える”は発信、“伝わる”は共有

伝える=情報を出す行為
伝わる=情報と意図が、相手の心に届く状態

つまり、「伝える」は自己完結、「伝わる」は相手と成立した結果なのです。

たとえば、

  • 「わかってもらえた?」と尋ねる
  • 「今の話、どう受け取った?」と聞き返す
  • 「今の説明、何か疑問はある?」と確認する

こうした一言を添えることで、すれ違いのリスクは大きく下がります。


◆実践ワーク:「言ったけど伝わらなかった経験」

【STEP1】思い出してみよう

あなたが「ちゃんと伝えたのに、相手に通じなかった」経験はありますか?

  • いつ、誰に、何を伝えた?
  • どんな誤解が起きた?
  • 今ならどう伝えれば良かったと思う?

【STEP2】見直してみよう

  • 以心伝心や前提の共有に甘えていなかった?
  • アンコンシャス・バイアスで相手を決めつけていなかった?
  • 伝わったか確認するアクションを取った?

この振り返りが、次の「伝わる言葉」を生み出します。


◆まとめ:「伝わったかどうか」は相手の心に聞け

言葉を“伝える”のは、たしかに私たちの役割です。
でも、“伝わったかどうか”は、相手の心が握っているカギ

「伝える」ことと「伝わる」ことの間にあるのは、
気遣い・確認・誤解の回避といった“ひと手間”です。

日本の以心伝心文化は美しいけれど、現代の多様化したコミュニケーションには“言葉の明文化”と“確認”が不可欠です。

察してもらうのを期待するより、「ちゃんと伝える努力」をしませんか?


【次回予告】

第4回:「“共感”は技術なのか?〜非認知スキルの真価〜」
知識でも、スキルでもない。AIではまだ難しい「人の感性」はどう育つのか?
共感力や対人センスといった“非認知スキル”に焦点を当ててお届けします。

投稿者について

hideyuki_kubota

1967年生まれのひつじ年の獅子座。O型