◆「ちゃんと言ったのに伝わらない」問題、発生中
職場でも家庭でも、こんなセリフを聞いたことがあるかもしれません。
- 「え?そんなつもりで言ったんじゃないのに…」
- 「ちゃんと伝えたつもりだったんだけどな」
- 「察してくれてもよくない?」
この“言ったつもり、伝えたつもり”が、なぜか伝わらない。
言葉を交わしているのに、すれ違う——
これが今回のテーマ、「“伝える”と“伝わる”の違い」です。
◆“以心伝心”の文化が生むコミュニケーションの罠
日本文化には「空気を読む」「行間を読む」「察する」という独自のコミュニケーションスタイルがあります。
これはとても美しく、調和的な文化でもありますが、同時にとても高難易度なスキルでもあるのです。
たとえば、こんな会話。
👩💼部下:「この件、どうしましょうか?」
👨💼上司:「前と同じで、よろしく」
……前と同じって、どこまで?何を?
部下は「なんとなく察しろ」と求められている。
でも実は、前提条件が違っていることも。
日本では「言葉にしないこと」が美徳とされる場面も多く、
言語化しないまま「伝わってると思ってる」ケースが散見されます。
しかし、これは以心伝心が前提になっている不完全な伝達です。
◆“察してちゃん”の危うさ
「私、言わなくても気づいて欲しいんですよね」
「ほんとは、わかって欲しいのに……」
——これが“察してちゃん”です。
実は誰もが少しはこの気質を持っているものです。
でも、これは相手の「読解力」に依存した、非常に不安定な伝え方。
しかも、「察してよ」の裏にはしばしば感情の爆発が隠れており、
伝わらなかったときには不満・怒り・誤解・離職・人間関係の崩壊という代償が待っています。

◆“アンコンシャス・バイアス”という見えないメガネ
「言ったのに伝わらなかった」のもう一つの原因が、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)です。
- 「この人は経験があるから、当然これくらいわかってるはず」
- 「女性だから、感情的に受け取るかも」
- 「若いから、まだそこまでは任せられない」
これらはすべて、無意識の中で相手を“型にはめて”解釈しようとするバイアスです。
このフィルターを通してしまうと、どんなに正確に伝えたつもりでも、相手の“脳内で変換”されてしまうのです。
◆“伝える”は発信、“伝わる”は共有
伝える=情報を出す行為
伝わる=情報と意図が、相手の心に届く状態
つまり、「伝える」は自己完結、「伝わる」は相手と成立した結果なのです。
たとえば、
- 「わかってもらえた?」と尋ねる
- 「今の話、どう受け取った?」と聞き返す
- 「今の説明、何か疑問はある?」と確認する
こうした一言を添えることで、すれ違いのリスクは大きく下がります。
◆実践ワーク:「言ったけど伝わらなかった経験」
【STEP1】思い出してみよう
あなたが「ちゃんと伝えたのに、相手に通じなかった」経験はありますか?
- いつ、誰に、何を伝えた?
- どんな誤解が起きた?
- 今ならどう伝えれば良かったと思う?
【STEP2】見直してみよう
- 以心伝心や前提の共有に甘えていなかった?
- アンコンシャス・バイアスで相手を決めつけていなかった?
- 伝わったか確認するアクションを取った?
この振り返りが、次の「伝わる言葉」を生み出します。
◆まとめ:「伝わったかどうか」は相手の心に聞け
言葉を“伝える”のは、たしかに私たちの役割です。
でも、“伝わったかどうか”は、相手の心が握っているカギ。
「伝える」ことと「伝わる」ことの間にあるのは、
気遣い・確認・誤解の回避といった“ひと手間”です。
日本の以心伝心文化は美しいけれど、現代の多様化したコミュニケーションには“言葉の明文化”と“確認”が不可欠です。
察してもらうのを期待するより、「ちゃんと伝える努力」をしませんか?
【次回予告】
第4回:「“共感”は技術なのか?〜非認知スキルの真価〜」
知識でも、スキルでもない。AIではまだ難しい「人の感性」はどう育つのか?
共感力や対人センスといった“非認知スキル”に焦点を当ててお届けします。