◆「共感って、つまり聞いてあげるってことでしょ?」の誤解
最近、「共感が大事だ」とあらゆる分野で言われています。
それはたしかにその通りなのですが――
「共感=ただ聞いてあげること」と誤解している人が、とても多い。
- 「そうなんですね〜」
- 「わかります、わかります」
- 「大変だったんですね……(あくまで聞くだけ)」
これらは**“共感っぽいリアクション”ですが、実は本当の意味での“共感”とは違う**のです。
◆共感力は「非認知スキル」の代表選手
まず整理しましょう。共感力は、いわゆる「非認知スキル」と呼ばれるものの一つです。
これはIQや論理的なスキル(認知スキル)とは異なり、
- 感情を読み取る力
- 相手の立場に立って考える力
- 状況を察し、適応する柔軟性
- 対人関係を円滑にする能力
……といった、数値では測れない「人間力」的なものを指します。
そしてこの「共感力」、**生まれ持った気質だけでなく、“トレーニングできるスキル”**でもあるのです。
◆「共感」と「同意」は違う。「否定しないこと」とも違う。
たとえばこんな場面を想像してください。
👩💼部下:「昨日、クライアントにすごく怒られて、正直もう辞めたくなってきました……」
👨💼上司A:「……そうなんだ。辞めたくなったんだね。」(→否定しないだけ)
👨💼上司B:「うん、それだけきつかったんだよね。ちゃんと向き合ったからこその反応だったと思う。悔しかったのかな?」(→共感的に聞き返す)
Aの対応は“否定しない聞き役”ですが、相手の感情に対して“自分の言葉”で寄り添う”という意味では、やや受け身すぎます。
一方、Bは“感情を言語化”し、“気持ちにラベルを貼る”ことで、「あ、この人はわかってくれた」と実感させることができます。
これが共感のスキルです。

◆共感は、感情の「翻訳」と「返送」
心理学的に言うと、共感には2つの動きがあります。
- 感情を読み取る(翻訳)
→ 相手の言葉・表情・声色から「今どんな気持ちか」を察する - 言語化して返す(返送)
→「それは悔しかったよね」「不安だったのかな」と返す
この“翻訳と返送”があってこそ、相手は「理解された」と感じられるのです。
ここに“うなずき”だけの聞き役との決定的な差があります。
◆AIにはまだ難しい、人間ならではの力
今のAIは、高速に情報を処理し、過去の事例に基づいた“それっぽい”応答はできます。
でも、「言葉の裏にある感情」や「その人の背景に寄り添う」共感的応答は、まだ苦手です。
- “悲しみ”の中にある“怒り”
- “怒り”の裏にある“寂しさ”
- “笑顔”の中にある“無理してる感”
こうした複雑で微細な感情の読み取りと、それを支える文脈の理解は、
人間が“人間らしく”あるための最後の砦かもしれません。
◆共感力は「鍛えられる」
以下は、実際に共感力を鍛えるワークとして使える方法です。
【ワーク】感情の“翻訳トレーニング”
① 会話の中で、相手の「気持ち」を拾い上げてみる。
(例:「〜で困っててさ」→「それは不安だったね」)
② 相手が感情を言語化していなければ、こちらから仮説として出してみる。
(例:「悔しかった?それとも悲しかった?」)
③ 相手が「そう、それ!」となれば大成功。「うーん、違うかも」と言われたら、違う感情を再提案。
この練習は、相手に寄り添う感度を高めるだけでなく、自分の言語化力も養われます。
◆まとめ:「共感」は、ただの優しさじゃない
共感は、単なる同意でも、やさしさでも、うなずきでもありません。
それは相手の“内側にある感情”を、言葉としてそっと照らし出す力。
そしてこの力は、才能ではなく、トレーニングで高めていけるスキルです。
「相手の感情を翻訳し、正確に返す」。
その行為が、どんな論理よりも人の心を動かす。
共感とは、まさに「人間にしかできない高度な技術」なのです。

【次回予告】
第5回(最終回):「“学びの体験”をどうデザインするか?〜人×AI時代の育成アーキテクチャ〜」
すべての言葉・感情・関係性の土台にあるのが「体験」。
“共感される学び”“記憶に残る気づき”をどう設計するか?
人とAIの共存時代に必要な“体験の力”について、体系的にまとめていきます。