AIの進化は、私たちの働き方を劇的に変えつつあります。中でも人材育成の分野では、AIによるラーニング設計、自動化されたフィードバック、性格診断の精度向上など、かつては「人でなければできない」とされていた領域にも、AIがじわじわと入り込んできています。
実際、研修プログラムの構成や教材作成においては、AIの支援を受けることで、作成期間が1/3以下になったという事例も登場しています。さらには、社員一人ひとりの学習傾向や性格特性を把握し、個別最適化された研修コンテンツを提案するサービスも台頭しはじめました。
一方で、こんな声も聞こえてきます。
「AIに任せすぎると、“人間らしい成長”が置き去りになるのではないか?」
「部下の心の機微や空気感までは、AIでは汲み取れない」
それもその通りです。
私たち人事・育成担当の役割は、「育成を効率化すること」ではなく、「人を人として育てること」。テクノロジーはあくまで“手段”であり、教育や人間関係構築における“本質”をAIに委ねてしまっては本末転倒です。
では、AIは人材育成において何を担い、人は何を担うべきなのか?
AIが得意なこと
- 研修プログラムの設計補助(過去データに基づいた構造化)
- アンケートや診断結果のパターン分析と可視化
- 学習の進捗管理とリマインド
- ロールプレイの仮想体験などのシミュレーション補助
これらは、再現性の高いロジックが通用する部分です。大量のデータを扱う・短時間でフィードバックを返す・人の偏見に影響されない。これはAIの強みです。
人間にしかできないこと
- 研修中の表情や沈黙を「感じ取る」こと
- 「どうしてその行動をしたのか?」という背景や感情の探求
- モチベーションや価値観といった、目に見えない要素へのアプローチ
- 成長に伴走する“関係性”の構築
これらは、どれだけAIが進化しても、未だ“人間の領域”です。人が人に向き合うからこそ、「信頼」や「本気」が生まれます。
結論:AI × 人、どちらかではなく“掛け合わせ”
人材育成の未来は、“どちらが優れているか”ではなく、“どちらをどう活かすか”という問いへとシフトしています。AIが苦手な「人の感情」や「微妙な関係性」には、人の介在が不可欠です。一方、人が時間をかけすぎていた設計や分析の領域は、AIに任せることで、人が「本来向き合うべき人」に時間を使えるようになります。
人事という立場において、今まさに問われているのは「AIと人、両方を活かした育成デザイン」ができるかどうか。次回は、具体的にどのように“ハイブリッド型育成”を設計すべきか、導入事例とともに掘り下げていきます。

このテーマの今後の予定です!
第2回:「ハイブリッド型育成プログラムの設計ステップ」
第3回:「AI研修コンテンツ活用の成功と失敗」
第4回:「人が担う“育成の感情領域”とは?」