第4回:拡張する誤解 ─ “正しさの罠”と、香澄が抱える静かな傷
1|香澄は、“正しさ”で自分を守ってきた
夕方の会議が終わり、誰もいない会議室で香澄は一人座っていた
蛍光灯の白い光が、彼女の疲れた表情を照らす
(また、やってしまった、、、
悠斗くんの言い方に引っかかって、つい“正しさ”を押しつけてしまった)
香澄は、
「正しいことを言えば、状況は良くなる」
と信じるタイプだった
実際、それで乗り越えてきたことも多い
しかし──
「正しいこと」が、いつからか
自分を守る鎧にも、他人を遠ざける壁にも
なっていた
2|香澄が“正しさ”に縋る理由:かつて抱えた敗北感
香澄は20代のころ、上司からこう言われたことがある
「人格は否定しないけど、君のやり方は甘い!
リーダーになるなら、“弱みを見せるな”」
その言葉は、
胸に刺さったまま抜けなかった
弱さを見せれば「隙」になる
甘さを出せば「軽んじられる」
だから、いつの間にか
“正しさを纏うことで、攻撃されない自分”をつくっていた
だがその副作用は、
”相手の心を置き去りにする“鋭さ”だった
彼女はそれに気づけないふりをしてきた
3|“誤解”は、正しさから生まれる
木曜の夕方、案件レビュー中
香澄
「顧客の意図を確認しないまま作業したのは問題だよね」
悠斗
「……だから、僕のせいってことですよね」
香澄
「いや、そう言いたいんじゃなくて——」
悠斗
「はいはい、わかりました、僕が悪いんでしょ」
——会話は噛み合わない
香澄の狙い:
「行動の癖」を指摘したい
悠斗の受け取り:
「人格を否定された」と感じる
“正しさ”の言語は、
相手が不安を抱えている時、
“攻撃”と解釈されやすいという事実を香澄は知っていなかった
4|香澄の葛藤:
「私は、優しくしたいわけじゃない、でも傷つけたいわけでもない」
香澄は帰り道、コンビニの前で足を止めた
(私は、いったい何がしたいんだろう)
(成果?チームのため?それとも・・・
“できる上司”のフリをしていたいだけ?)
胸にひりつく痛みが広がる
誰にも言えない弱さだった
“正しさ”は、彼女にとって
過去に負けた自分へのリベンジでもあった
(「弱い自分に戻りたくない」
その思いが、
私を“強い言葉”にしてしまっているのかもしれない)
5|誤解は“認知の歪みの連鎖”で増幅する
心理学では、
人間はストレスが高まると、
「相手の意図」ではなく「自分の不安」で言葉を聴くことが分かっている
- 香澄の歪み:
「私が優しくしたら、またなめられる」 - 悠斗の歪み:
「この人は、俺を責めたいだけだ」
この歪みは、
“認知のフィルター”として会話を通させる。
結果、同じ言葉でも
まったく違う意味に変換される
このメカニズムを「拡張する誤解」と呼ぶ
6|香澄の脆さに“気づいた”瞬間
翌週、1on1での一コマ
香澄
「私は・・・正しいことを言えばうまくいくって、思い込みすぎてたのかもしれない」
悠斗は驚いた顔をした
香澄自身も、言ってから少し震えた
(弱さを出してしまった、
これで軽んじられたらどうしよう)
だが悠斗は、小さく返した
「・・・僕も、“どうせ”って言葉で逃げてました
怖かったんです」
その瞬間、香澄は気づいた
自分の正しさは、
悠斗の“怖さ”に触れないままだったことに・・・
7|香澄の決断:「私は変わることを選ぶ」
(金曜夜、帰宅中)
街灯の下、香澄はスマホにメモを打った
・私は、強いふりをして弱さを隠していた
・その弱さを見せることが、実はチームを守る
・“正しさの押しつけ”は、関係を遠ざける
・まずは自分が変わることで、チームの歪みをほどきたい
(私は、あの頃の“弱かった自分”と和解しないといけないのかもしれない)
静かに息を吐く
リーダーとは、完璧であることではなく
“揺れながらも踏みとどまる人”なのだと初めて思えた
次回(第5回)予告
「外部ワークショップの翌朝 ─“わかったつもり”が消える瞬間」
部下・悠斗視点
外部の学びがなぜ続かないのか?
“行動に落ちない心理学”と“反動”を描きます
📚エビデンス・参考文献(2024–2025最新)
- Edmondson, A. (2024). Psychological Safety Revisited.
心理的安全性が低い状況では、評価不安(Evaluation Anxiety)が増し、
“正しさ”の指摘が人格攻撃として受け取られる確率が高まる。 - Heen & Stone (2014). Thanks for the Feedback.
“正しい内容”が“正しく届かない”のは、
受け手の「アイデンティティ反応(Identity Trigger)」が活性化するため。 - Beck (Cognitive Therapy).
ストレス下では「認知の歪み」が強まり、
相手の意図ではなく“自分の恐れ”を根拠に意味づけが行われる。 - Brené Brown (2023).
脆さ(Vulnerability)を見せるリーダーは、
信頼を創り出す確率が1.8倍高まるという調査結果。 - Gottman Institute (2023).
皮肉・防衛・軽蔑はコミュニケーションの破綻要因となり、
職場の信頼低下を加速させると報告。

