『チーム全体介入』〜個人の問題を システムの問題に変える〜
香澄は気づいていた
悠斗だけを見続ける限りこのチームは持たない
揺り戻しが起きるたび
本人の努力や意識に委ねてしまえばいつか必ず限界が来る
それは過去に何度も見てきた光景だった
個人の問題に見えるものほど
実はシステムの歪みとして現れている
中間管理職になってから香澄が一番痛感していることでもある
だから今回
彼女は個人指導ではなく
チーム全体の設計に手を入れることを選んだ
まず変えたのは会議の構造だった
これまでの会議は
進捗報告と判断の場が混在していた
判断が遅れる人ほど発言しづらくなる構造だった
香澄は会議を二つに分けた
①共有だけの会議、②判断だけの会議
”共有の場”では意見をまとめなくていい
違和感や途中経過を出すことを目的にした
”判断の場”では責任者を明確にし
決めることだけに集中する
芽衣の表情が少し柔らいだのを香澄は見逃さなかった
次に変えたのは”称賛の扱い方”だった
成果だけを褒めるのをやめ
行動と試行を言語化して拾う
・早く終わらせた
・正解を出した
ではなく
⭐︎共有してくれた
⭐︎止めてくれた
⭐︎迷っていると出してくれた
その基準を全員に明示した
最初は誰も慣れなかった
称賛される側もどう反応していいか分からない
だが
空気は少しずつ変わっていった
そして一番大きく変えたのは苦情と不満の動線だった
これまでは、不満は個人に溜まり
ある日突然感情として噴き出していた
香澄は不満を出すための枠を作った
月に一度、個人名を出さず構造だけを書く場
・業務量
・判断の重さ
・連携の詰まり
悠斗は最初は黙っていた
だが
三回目の場で短く書いた
「判断の基準が毎回変わると怖くなる」と・・・
香澄はその一文をそのまま読み上げた
誰のものかは言わない
チームが静まる
だが誰も否定しない
それは悠斗一人の問題ではなかった
香澄は理解していた
この瞬間
個人の痛みがチームの課題に変わったことを
”レジリエンス”とは
個人を強くすることではない
揺れても壊れない構造を組織側が用意すること
その設計を担うのが中間管理職の仕事だ
完璧ではない
不満も残る
それでも以前のように誰か一人が抱え込む状態ではなくなった
会議の終わり
悠斗が小さく言った
「・・今のやり方なら続けられそうです」
香澄は
その言葉を過度に持ち上げなかった
ただ静かに頷いた
チームは急に良くならない
だが、壊れにくくはできる
香澄はその確信を少しだけ持てた気がしていた
次回予告
第9回
限界と選択
上司視点
全てを救えない現実
それでも残る責任
配置転換 評価 決断
中間管理職が最後に背負うものを描きます
参考視点 エビデンス
Edmondson
「心理的安全性は個人介入より
チーム設計の影響が大きい」
Hackman
「チーム設計理論
役割 会議 構造の再設計が
個人パフォーマンスを左右する」
Hobfoll
”COR理論”
「資源を個人に集める組織は疲弊と離脱が起きやすい」
Google re Work 2024
「成果を出すチームは
称賛と違和感共有の頻度が高い」

