第2話:優先順位は“足すこと”より“捨てること”で決まる
ある夏のランチタイム
舞台は前回と同じ、駅前のベーカリーカフェ。
時計は正午を指し、行列は外にまで伸びる。
フロア責任者の橘は厨房から飛んでくる声に耳を澄ます。
「冷製スープが切れそう!」「追加POP貼りますか?」
新人の真帆は、列の最後尾で焦った顔をしていた。
橘の脳裏に浮かぶのはただ一つ——“やるべきこと”ではなく“やらないこと”を決めろ。
1. 優先順位は「やらないこと」から決める
行列が伸びる現場で、「全部やる」は不可能。
橘は瞬時に指示を出す。
- やらないこと
・新商品のPOP貼替
・インスタ用の写真撮影
・パン棚の小さな整列 - やること
・焼き立てトレーの循環
・列誘導と待ち時間案内
・レジ速度の最適化
ここで橘が心の中でつぶやく。
「やらない勇気が現場を救う」
実際、行列対応の効率性は選択と集中によって最大化することが、待ち行列理論やオペレーション研究(※1,※2)で示されている。
2. 優先順位を狂わせる“欲張り病”
一方で、別の現場責任者・佐藤は真逆の判断をしていた。
「この機会に新商品も売らなきゃ!」
「インスタに写真をアップしないと!」
その結果、列は滞留し、客は不満顔で店を後にする。
「欲張り病」が生むのは、一時的な売上アップどころか顧客離脱だ。
3. 部下に優先順位を伝える言葉
「全部頑張れ」ではチームは動かない。
橘は真帆に声をかける。
「真帆さん、今日はPOPは触らなくていい。列と声かけがあなたのミッション。これさえやれば今日のゴールに届く」
“何をしないか”を明確に伝えることで、部下は迷いなく動ける。
研究でも、部下に「優先すべき3つ」を明確に伝えたチームは、曖昧な指示のチームに比べて成果が1.5倍高まると報告されている(※3)。
4. 優先順位のフレームワーク「3つの箱」
橘が使うのは「3つの箱思考」だ。
- 残す箱(やる)
- 捨てる箱(やらない)
- 創る箱(後で仕組みに変える)
今回の「POP貼替」は「捨てる箱」。
「団体来店フォーマットを整備する」は「創る箱」に入る。
こうして優先順位の軸が整理される。
5. 優先順位は“人の余裕”を守るため
優先順位の曖昧さは、結局部下の疲弊を生む。
「言われたから全部やらなきゃ」
「頑張っても評価されない」
心理的安全性の研究(※4,※5)によれば、優先順位の曖昧さは不安を増幅し、離職率を高める。
逆に「今日はこれをやればいい」と明確に示されたチームは、満足度も成果も高い。
読者への問いかけ
- あなたの現場で、「やらないこと」は宣言されていますか?
- 部下に「優先順位」をどう伝えていますか?
- 欲張って、結果的にお客様を失望させていませんか?
今日のまとめ
- 優先順位は「やること」ではなく「やらないこと」から始める
- 欲張り病は顧客離脱を招く
- 部下には「これさえやればいい」と明確に伝える
- 優先順位の設計は“人の余裕”を守る仕組みそのもの
次回(第3話)予告
「人は“行動”でしか信頼を築けない——信頼を生む10秒のルール」
クレーム対応から日常の声かけまで、“信頼を得る行動”の本質に迫ります。
参考・エビデンス
※1 Little, J. D. C. (1961). A Proof for the Queuing Formula L = λW. Operations Research.
※2 Gans, N., Koole, G., & Mandelbaum, A. (2003). Telephone Call Centers: Tutorial, Review, and Research Prospects. MSOM.
※3 Center for Creative Leadership (2019). Prioritization and Team Performance.
※4 Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams.
※5 Google Re:Work (2015). Project Aristotle.

