ハラスメントと境界線 ― 指導と強要の違い
なぜ今「境界線」が問われているのか?
令和の職場で上司に求められる最も難しいスキルのひとつが、「適切な指導」と「ハラスメント」の線引き」です。
厳しくすれば「パワハラ」と言われ、優しすぎれば「放任」と批判される。そんな悩ましい状況が、現場のリーダーを追い込んでいます。
厚生労働省の調査(2022年「職場のハラスメント実態調査」)では、約3割の労働者が「上司からの指導をハラスメントと感じた経験がある」と回答しています。つまり、「良かれと思った指導」が、受け手にとっては「攻撃」となるケースが日常的に起きているのです。
指導とハラスメントの分かれ道
- 目的が「成長」か「支配」か
- 指導:部下の成長や成果を促す目的で行う
- ハラスメント:相手を従わせる・抑え込むことが目的化する
- 行動に具体性があるか
- 指導:「次回は報告前にデータを2度確認しよう」
- ハラスメント:「お前はいつも雑だ」「だからダメなんだ」
- 状況や背景への配慮があるか
- 指導:本人の状況(経験・体調・家庭の事情など)を踏まえ、言葉を選ぶ
- ハラスメント:状況を無視し、場当たり的に叱責する
ノンバーバルの影響
言葉だけでなく、「声のトーン」「表情」「距離感」も境界線を決める要素です。
例えば、穏やかに伝えた注意と、怒鳴り声で同じことを伝えるのでは、受け手の心理的ダメージはまったく異なります。
研究(Kaufman & Patterson, 2018)では、ノンバーバルな攻撃性(威圧的な視線・近すぎる距離感)は、言葉以上に部下のストレス反応を強めることが示されています。
アンコンシャスバイアスが境界線を曖昧にする
- 「若いんだからもっと頑張れ」
- 「女性なんだから気配りできるよね」
- 「ベテランだからITは苦手だろう」
これらは本人に悪意がなくても、偏見に基づく指導として相手を傷つける可能性があります。ILOの報告(2020年)では、アンコンシャスバイアスを背景とする指導が「構造的ハラスメント」に繋がりうることが強調されています。
読者への問いかけ
- あなたの「指導の目的」は、相手の成長に向いていますか?
- 「いつも」「だからダメだ」といった人格否定的な言葉を使っていませんか?
- 声のトーンや表情で、無意識に相手を追い詰めていないでしょうか?
- 自分の中に潜む「○○だから△△に違いない」という思い込みはありませんか?
ミニワーク:あなたの指導はハラスメント寄り?セルフチェック
以下の10項目を「はい / いいえ」で答えてみましょう。
3つ以上「はい」があれば、指導スタイルを見直すタイミングです。
- 注意をするとき「いつも」「全然ダメ」といった言葉をよく使う
- 部下の前で大声を出すことがある
- 感情的になりやすく、トーンや態度をコントロールしづらい
- 部下の背景や状況(経験・家庭事情など)を考慮せずに指導してしまう
- 「若いから」「女性だから」といった前提で役割を決めることがある
- 指導後に「どう受け止めたか」を確認していない
- 注意を“その場の感情”で伝えてしまうことが多い
- 具体的な改善策ではなく「もっと頑張れ」と抽象的に言うことが多い
- 指導後、部下が意見を言いづらい雰囲気になっている
- 自分の言葉や態度が部下にどう影響しているか振り返る習慣がない
診断の目安
- 0~2個の「はい」:比較的健全。ただし改善余地あり。
- 3~5個の「はい」:ハラスメントと誤解されるリスクあり。改善行動を意識的に取り入れること。
- 6個以上の「はい」:部下の心理的安全性が損なわれている可能性大。信頼回復に向けた本格的な取り組みが必要。
参考・エビデンス
- 厚生労働省「職場のハラスメント実態調査」(2022年)
- Kaufman, J., & Patterson, T. (2018). Nonverbal Aggression and Workplace Stress. Journal of Applied Psychology.
- ILO (2020). Eliminating Violence and Harassment in the World of Work.
👉 次回(最終回・第5回)は、これまでの総まとめとして 「未来をつくるリーダー像とアンコンシャスバイアス克服」 をお届けします。シリーズを通して「自己理解 → 行動変容」に繋げる締めくくりにしましょう。

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