「管理職のレジリエンス」⑤

いよいよ折り返しです!

第5回:外部ワークショップの翌朝 ─ “わかったつもり”が消える瞬間


1|「昨日、めっちゃ良かったよね」

外部ファシリテーターを招いたチームビルディングワークショップ
アイスブレイクで笑い、
ストレングスカードで盛り上がり、
最後はみんなで拍手して終わった

——その帰り道

芽衣が言った
「今日のワーク、すごく良かったですよね!
 チームが変わりそうな気がしました!」

悠斗は、曖昧に笑った
「……まあ、そうっすね」

でも本音は違う

(こういうの、何十回とやったけど…
 結局さ、翌朝には元どおりなんだよ)

“人は変われる”と信じたい気持ちと、
“どうせ変わらない”という諦め
その二つが、胸の中で静かにぶつかり合っていた


2|ワーク後の“高揚”は一晩で消える

翌朝8:55、オフィス

(……やっぱりね)

ワークショップの翌日、
チームの空気は前日と全く同じだった

・会議室にはいつもの沈黙
・リーダーたちは忙しくて立ち止まれない
・仕事の山が、昨日より増えている
・現場は“実務の優先”モードに戻る

外部研修の「感動」は、
現実の前であっさりと霧散する

心理学ではこれを
「行動転移の谷」という。
人は、学びを行動に変える前に必ず“谷”が来る
谷を越える支援がなければ、
学びは“イベントの記憶”で終わる

これは成長の過程でも起こり得るのだ

(昨日の学びが嘘だったわけじゃない
 ただ“現実があまりに強い”だけだ)


3|外部の言葉は刺さるのに、上司の言葉は刺さらない理由

今回のワークショップで、ある言葉が印象に残っていた

「人は、他者の期待より“自分の物語”に従って動く」

ファシリテーターの声は、不思議と素直に入ってきた
でも香澄の声は、なぜか刺さらない

(なんでだろう)

その理由は、本人が一番よく知っていた

香澄の言葉には、“評価の匂い”がついている
正しい、正しくない
できてる、できてない
認められる、認められない

外部の人は「中立」だが、
香澄は“俺を判断する人”

だから——
刺さり方が違う


4|夕方、デスクに置かれたメモ

その日の夕方、
悠斗のデスクに香澄からの手書きのメモが置かれていた

「昨日のワーク、お疲れさま
 あなたの“視点の鋭さ”は、強みです
 一緒に、行動に落とす方法を探したいと思っています」

彼女の字は、丁寧だ
普段のきつめの言い回しとは裏腹に、
どこか弱さを含んでいるように見えた

(……あの人にも、あの人なりの不安があるのか?)

悠斗は、心の奥が少しざわついた


5|変わらないのではなく、“変わり方を知らない”だけ

金曜の夜、帰宅途中
電車の窓に映る自分の顔を見て、悠斗は思った

(別に、変わりたくないわけじゃない)
(ただ、どう変わればいいかわからないだけなんだ)

外部ワークショップで言われたことは、確かに心を動かした
でも問題は、
「次の日からどうするかの“処方箋”がない」ことだ

・優しくなる?
・主体的に動く?
・チームで協力する?

(それって、どうやるの?)

行動は“言葉”では変わらない
必要なのは、
「明日1個だけやる行動の決め方」だ


6|日曜の夜、ひとつだけ決めたこと

日曜の夜、歯を磨きながら、
悠斗は1つだけ決めた

(明日、芽衣に“おはよう”って普通に返そう)

たったそれだけ
でも、彼にとっては大きな一歩だった

“どうせ”が口癖の人間にとって、
小さな行動のハードルは、想像以上に高い

でも、
谷を越えるのは、小さな一歩で十分なのだ


7|翌朝、少しだけ違う景色

月曜朝

芽衣
「おはようございます!」

悠斗
「……おはよう」

芽衣の目が、少し驚いて、やがて笑顔になった

香澄も見ていた
その瞬間、彼女は心の中で
(変わりたい気持ち、確かにあるんだな)
と静かに呟いた

外部ワークショップの“熱”は消えてしまう
でも、行動の火種は残っている

燃やすかどうかは、
本人と上司の“設計”次第だ


📚 エビデンス(2023–2025最新)

  1. Baldwin & Ford (1988)
     研修効果の70%は“職場への転移”の成否で決まる
     職場支援なしでは行動変容はほぼ起きない
  2. Lally et al. (2010)
     “習慣化には平均66日かかる”
     外部研修の一過性は、科学的にも当然の結果
  3. Deci & Ryan(自己決定理論)
     行動変容は
     自律性(自分で決めた)
     有能感(できそう)
     関係性(見守られている)

     の3要素が揃わないと継続しない
  4. Edmondson (2024)
     心理的安全性の低いチームでは、
     「学びは理解されるが行動には落ちない」という“態度と行動の乖離”が発生する
  5. Gollwitzer(実行意図)
     “明日、〜する”という具体的な行動目標(IF-THEN)が
     行動変容に最も効果的

次回(第6回)

「線引きと支援の再設計 ─ “期待と不安”の再定義」
上司・香澄視点
いよいよ“行動契約”と“役割の再定義”の設計に入ります

投稿者について

hideyuki_kubota

1967年生まれのひつじ年の獅子座。O型